中勘助6「鳥の物語」

中勘助6-鳥の物語-

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カタクリ咲く4月11日

何と言う暑さでしょうか。今日で4日目です。この暑さは例年ですと5月下旬の頃に感じているものですが・・・。4月の7日夜になんと珍しいハクチョウの鳴き交わす声が北へ遠ざかって行きました。一週間遅れの北帰行でした。遅れ気味なミズバショウカタクリも咲く季節だと思っていたら,いきなりのこの暑さです。
桜が11日に咲く始めたと思ったら2日目の今日はほぼ満開です。ものすごいスタートダッシュです。
沼はお花見の絶好の季節で,岸近くではフナやコイがバシャバシャと水をはね返して産卵の時期に入っています。

さて中勘助の6回目は「鳥の物語」です。
この作品は昭和八年の「雁の話」以来,最終話の昭和三十八年の「雉子の話」までなんと三十年の月日が費やされました。しかし三十年の年月をかけた分だけあって一話一話が完結しており,質が高いです。この「鳥の物語」という作品は私がお気に入りの作品集です。意外と読まれてはいませんが,傑作です。実に人と鳥が近しい存在で語られ,それぞれの鳥の格式高い性格や特徴が的確に出るように仕組まれています。中勘助自身を知る上でも一番のお勧めでしょう。この「鳥の物語」は全12種の鳥を扱っています。その執筆順を確かめてみましょう。

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カタクリ咲く4月11日

これが「鳥の物語」に出てくる作品順です。脱稿年月と載った雑誌も入れてみます。
雁の話       昭和8年6月  「思想」133号
鳩の話       昭和16年10月「「鳩の話」「氷を割る」を収録して岩波書店
鶴の話       昭和23年2月 山根書店
ひばりの話     昭和21年6月 「フレンド(幼年雑誌)」
鶯の話       昭和21年8月(初出は「鶯とほととぎすの話」)世界8号
(ここで5編をまとめて昭和24年5月に「鳥の物語」として山根書店より出しています)
白鳥の話      昭和24年9月文藝6-9
いかるの話     昭和24年9月女性線4-9
鷹の話        昭和28年6月心6-6.7
鵜の話        昭和29年7月婦人公論39-7
鷲の話        昭和29年8月心7-8
雉子の話       昭和38年6月心16-6
かささぎの話     昭和38年5月心16-5
(雑誌「心」は同人誌で,昭和23年7月に創刊,安倍能成武者小路実篤辰野隆、長與善郎、佐藤春夫などが中心となっている。発行元も度々変わっていて,昭和32年からは平凡社。最終は昭和56年7・8合併号。あの串田孫一が1970年代から編集をしていました)

ほぼ執筆年代順ですが,「鶴の話」をぐっと前に出してきました。また「雉子の話」「かささぎの話」を前後入れ替えをして収めています。全十二話完結に30年の月日をかけた「鳥の物語」ですが,案外感触も良く,読者からはぜひ続きをという声が高かったのではないかと思われます。

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伊豆沼のセイタカシギ4月9日

中勘助の「鳥の物語」では何が好きかと言われそうですが,やっぱり「雁の話」ですかね。
この話は漢の武帝匈奴の土地に蘇武を使いとして送るが,蘇武は匈奴に幽閉されてしまいます。ある秋,南へ渡る雁を見上げて蘇武は雁の足に手紙を付けて飛ばします。その手紙を持った雁はやがて漢王の元に降りてきます。19年の幽閉を解かれ,蘇武は帰郷を果たします。
勘助の話もその蘇武の逸話を題材に蘇武と人に慣れることのない雁という鳥の孤高の姿を描きます。
漢書」では蘇武は匈奴の国に使者として派遣されるが,日本では匈奴と戦う将軍という設定もあるそうだ。また肝心の雁が実際に手紙を運んだという設定と蘇武の解放を試みる使者が機転を利かせて創作したフィクションとも伝わる話もあるようです。

伊豆沼は十万単位の雁の越冬地となっています。
雁のいる風景では例えば「雁風呂」や「雁の草子」などの話で鳥と人との関係が語られ続けています。特に雁と人との関係は古代から美しい話になっています。

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桜スタートダッシュ 今朝4月13日

最近京都大学白眉センター特定助教 鈴木俊貴氏のシジュウカラの鳴き声の分析をラジオで聴きました。
素晴らしいです。現代の「聴耳頭巾」です。